諸外国の在宅ケアスタッフに対する暴力防止のために使用されたリスクアセスメントツールを紹介します。
A.暴力防止アセスメントツール
訪問スタッフが暴力に遭遇するリスクを評価するための4種類のアセスメントツールです。
(1)Home Visit Risk Scale (HVRS)
(McPhaul K, Lipscomb J, Johnson J. Assessing risk for violence on home health visits. Home Healthc Nurse. 2010;28:278-89.)
- 1.精神疾患もしくは物質依存の1つもしくは両方を持っている
- 2.利用者が訪問中に酔っている
- 3.暴力歴がある
- 4.銃や致命的武器が見える場所にある
- 5.家族の違法行為がある
- 6.初回訪問前に暴力に関する情報がある
- 7.初回訪問前に精神疾患の病歴に関する情報がある
- 8.初回訪問前に利用者の薬物乱用に関する情報がある
- 9.初回訪問前に家族の犯罪に関する情報がある
各項目に対して,頻繁に(毎日または毎週),時々(2~4回/月),たまに(月に1回),まれにしか/決してない,で選択し、0~27のスコア範囲について項目を合計し, 低い・中程度・高いで訪問リスクを分けます。
(2)The rapid risk assessment tool
(Mathiews A, Salmond S. Opening the door to improve visiting nurse safety: an initiative to collect and analyze protection practices and policies. Home Healthc Nurse. 2013;31:310-319.)
- (評価項目)
- 1.利用者や家族を知っているか
- 2.知らないことがあると他のサービス提供者から情報を入手できるか
- 3.利用者,家族の暴力・ハラスメント歴を知っているか
- 4.安全でない地域に住んでいる利用者か
- 5.自分の場所を知らせるシステムはあるか
- 6.携帯電話か防犯ブザーを所持しているか
- 7.訪問時に同僚に連絡を取ることができるか
- 8.ディエスカレーション技術の訓練を受けているか
- 9.暴力行為者から逃げることができるか
- 10.実施しようとしている内容が,暴力を引き起こす可能性は高くないか
各項目に対して「はい」「いいえ」「わからない」で点数をつけ、10-15点低リスク、16-23点中リスク、24点以上高リスクとして訪問リスクを分けます。
(3)The Western Health Risk Assessment Screening Tool (WHRAST)
(Lundrigan E, Hutchings D, Mathews M, Lynch A, Goosney J. A risk assessment screening tool for community health care workers. Home Health Care Manage Pract. 2010;22:403-407.)
- 【高リスク】
- (質問)
- 1.訪問先での暴力や攻撃(家庭内暴力,性的虐待,サービス提供者への暴力・攻撃)の可能性
- 2.過去に武器関連の事件があったか
- (対策)
- ・はいの場合:安全計画を立てるために管理者に相談する
- ・わからないの場合:携帯電話を持ち歩くか対象者を知っているスタッフや管理者に相談する
- ・ないの場合:訪問前に開始・終了シートの記載を行う
- 【中リスク】
- 3.利用者またはその家族からサービス提供者に対して言語的攻撃がある
- 4.利用者の行動に影響を及ぼす可能性のある病気/状態(例えば、認知症、精神病、脳の外傷など)がある
- 5.家族に薬物やアルコール乱用歴がある
- 6.利用者から虚偽の報告がある
- 7.携帯電話サービスが不十分
- 8.危険な場所と考えられる地域に家がある
- 9.自宅内に危険な動物がいる
- (対策)
- ・このカテゴリ内の複数の質問がはいの場合:安全上の注意について話し合うために管理者に相談する
- ・利用者からサービス提供者に誤った主張がある場合:安全上の注意事項について管理者に相談する
- ・敷地内に危険な動物がいる場合:(可能であれば)利用者に事務所に来てもらうか、動物の拘束を依頼する・利用者が動物の拘束を拒否した場合は、家を出る
- ・わからない場合:携帯電話を持ち歩くか対象者を知っているスタッフや管理者に相談する
- ・ないの場合:訪問前に開始・終了シートの記載を行う
- 【低リスク】
- 10.他の家と物理的に隔離されている地域に家がある
- 11.訪問に影響する要因がある(持ち上げ,階段の崩れ、駐車場など)
- (対策)
- ・はいの場合:訪問を行う前に必要な安全上の注意を払う
- ・いいえの場合:訪問前に開始・終了シートの記載を行う
各項目に対して「ある」「ない」「わからない」の3項目から選択し、訪問時暴力リスク(高,中,低)を特定し、それに対する適切な対策が分かります。
(4)Protection Matrix Risk Assessment and Management Tool
(Mathiews A, Salmond S. Opening the door to improve visiting nurse safety: an initiative to collect and analyze protection practices and policies. Home Healthc Nurse. 2013;31:310-319.)
- 【高リスク】
- タイプ:
- ・地域にギャングや犯罪行為がある
- ・武器関連の事件や自宅内の見えるところに銃がある
- 時間:
- ・昼夜ともに危険な場所にある
- 状況:
- ・過去にサービス提供者に暴力の既往がある
- ・家族や友人は危険で、利用者は脆弱である
- ・家庭内暴力、セクハラの可能性がある
- (対策)
- ・訪問スタッフを守るために警察官を同行する
- ・午前7時から午前11時の間に全ての訪問を計画する
- ・リスクについて管理者に相談する
- ・保護サービスの紹介を検討する
- 【中リスク】
- タイプ:
- ・家族内に薬物やアルコール乱用の既往がある
- ・自宅内の目に見えない場所に武器がある
- 時間:
- ・日中の訪問のみ安全
- 状況:
- ・言語的暴力、嘘の告発,利用者や家族から脅迫を受けたことがある
- ・家族に過度に不適切な発言がある
- ・挑発的な行動がある
- (対策)
- ・管理者と安全計画を立てる
- ・訪問前後に管理者に連絡を入れる
- ・付き添いや同伴訪問を推奨
- ・強迫言語:問題があることを仲間に知らせる言葉:意識を高めるため、または逃げるための言葉を決める
- ・患者の家族が車から自宅へ同伴することを考慮する
- 【低リスク】
- タイプ:
- ・自宅内に危険な動物がいる
- ・近隣と物理的に隔離された位置にある
- ・照明や壊れた階段,駐車場など,自宅へのアクセスに影響がある
- ・平日は安全だが、週末や休日は安全でない
- ・地域は安全
- ・訪問中に多くの人がいる
- ・利用者や家族の行動に影響する病気(状態)がある(精神疾患、認知症、脳外傷など)
- ・サービスの遅れが家族の不満の原因となる
- ・文化社会的な違いがある
- (対策)
- ・管理者へ強迫コードを伝えたときは自宅に警察を呼ぶ
- ・自分自身を守る:許容できる行動を定義する>加害者
- ・家の安全性(保護評価)を評価する
- ・介護を行う家族の支援を検討する
- ・動物をつなぐもしくは収容することを依頼する
- ・携帯電話を持っていない場合、携帯電話サービスは十分か検討する
タイプ、時間、状況で暴力のリスクのチェックと、それに対する介入方法が分かります。
B.サービス提供者用安全管理ツール
雇用主が安全対策を実施できているのかを評価するためアセスメントツールです。
(1)Work Place Violence Safety Climate (WVSC)
(McPhaul K, Lipscomb J, Johnson J. Assessing risk for violence on home health visits. Home Healthc Nurse. 2010;28:278-89.より)
- (評価項目)
- 1.暴力防止に関する書面による安全対策
- 2.アルコールや薬物の影響を受けている利用者に対して、スタッフの対処法についての方針がある
- 3.新しい利用者に対して,その都度安全方針を伝える
- 4.訪問時にスタッフが使用するエスコートサービスを提供する
- 5.脅威と不安定な状況に関するデータを収集する
- 6.スタッフと経営陣の両方が参加する安全衛生委員会の設置
- 7.リスクの高い訪問、リスクに関する情報が不十分な訪問には複数名での訪問
- 8.利用者の犯罪に関する情報を提供
「強く同意」から「強く同意しない」の4段階で評価・全項目の合計点数を0から27点で評価し、高得点ほどリスクが高くなります。
在宅ケアスタッフを守るための諸外国での暴力防止教育プログラム
諸外国の在宅ケアスタッフに対する暴力防止教育プログラムの内容を紹介します。
(1) Ostromらのプログラム
(Oostrom JK;, van Mierlo H. An evaluation of an aggression management training programo cope with workplace violence in the healthcare sector. Res Nurs Health. 2008 : 31 : 320-328.)
プログラムは、(a)アサーティブネス(自己主張)と攻撃性のある人への洞察,暴力行動や人への認知について、(b)攻撃的な人との相互作用への洞察、これら攻撃性のある人における相互作用のスタイルの効果,(c)潜在的に脅威となる状況の発生を防ぐことを助けるテクニックの3つのパートで構成されている。
【プログラムの内容】 各パート4時間で2-3週間毎に実施する。
パート1:アサーティブネス、非言語的コミュニケーション,異なるコミュニケーションスタイルに関する演習・参加者は、訓練中に取り組みたい、あるいは解決したい個人的問題や疑問を見つける
パート2:フィードバック、地位、対立状況の取り扱いに関連する演習・参加者は、ロールプレイによって個人的問題に取り組む
パート3:専門の役者によるロールプレイを通して実際の行動の演習
【プログラムの効果】
- ・ アサーティブネスと攻撃性への洞察は、プログラムの参加によって向上し,その後,維持される
- ・ アサーティブネスと攻撃性への洞察は、対立する状況への対処能力に影響を与える
- ・ 対立する状況への対処能力はプログラム参加によって向上し、その後も向上を続ける
- ・プログラムは時間経過とともに、チーム機能より洞察や対処能力に影響を与える
- ・ プログラムは、チーム機能の向上と比較して、洞察、対処能力の向上に影響を与える
(2) Sylvesterからのプログラム
(Sylvester BJ, Reisener L. Scared to go to work: a home care performance improvement initiative. J Nurs Care Qual. 2002; 17: 71-82.)
【プログラムの内容】
訪問スタッフの暴力の認識と経験から作られた、「新たな同意書(武器の存在,危険な動物、違法薬物、職員への言語/身体的暴力)従えない場合契約の終了)の作成」,「訪問の安全へのヒント(訪問準備:コミュニケーションと準備の注意点、移動時の注意点、訪問時の注意点)の提示」に関する教育プログラム。
【プログラムの効果】
- ・訪問時に安全と感じる
- ・事務所に危険を減じる手段があることを知る
- ・安全を高める介入への理解が深まる
- ・安全に関する施設への信頼が改善する
引用文献
川崎絵里香,矢山壮,的場圭,三木明子.諸外国の在宅ケアスタッフに対する暴力のリスクアセスメントツールと暴力防止プログラムの評価.産業精神保健(2018).26(3):260-265.