管理者への支援

管理者への支援として、科学研究費補助金「訪問看護師・介護員における暴力への対応力向 上のためのトレーニングプログラムの開発(基盤研究C課題番号19K10840)」の助成を受けて行った調査について、紹介します。


新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより訪問看護師への新たなハラスメント被害の実態が明らかとなっています。訪問看護事業所の管理者は、感染症流行に伴う利用者対応や職員への感染対策を含めた安全管理への対応だけではなく、COVID-19関連のハラスメントへの対応も必要となりました。このような状況のなかで、訪問看護事業所の管理者に、平時のハラスメント対策とコロナハラスメント対策の困難さとの関連について、検討しました。

訪問看護事業所の管理者におけるコロナハラスメントの実態と対策の困難さ

【調査実施期間】

2020年10月~12月

【調査協力者】

A地域の訪問看護事業所管理者750名

【結果】

  • • 回答者136名
  • • 職員へのハラスメント被害があった事業所は14.7%
  • • 12項目の平時のハラスメント対策のうち半数以上の対策を実施している事業所は56.2%
  • • 平時から半数以上の対策を実施していた事業所は、COVID-19関連のハラスメント対策の必要性と、具体的対策について理解している割合が有意に高かった
  • • COVID-19関連のハラスメント対策4項目のうち、3項目以上で困難を感じている管理者の背景として、常勤職員数や主な利用者の特性で差があった

【結論】

平時からハラスメント対策を実施している事業所では、コロナハラスメントへの対応の困難さが低い可能性が示唆されました。一方で、小規模な訪問看護事業所の管理者への支援が必要であると考えました。

引用文献

Matoba Kei, Yayama So, Kawasaki Erika, Take Yukari, Yoshida Mami, Miki Akiko: The home health nursing managers’ difficulties dealing with the violence received from clients and their families. 22nd East Asian Forum of Nursing Scholars (EAFONS). 2019.

日本におけるCovid-19に関連するハラスメントが訪問看護師のメンタルヘルスに与える影響:横断的研究 的場圭、 手嶌大喜、 矢山壮、 川崎絵里香、 三木明子



管理者への支援として、科学研究費補助金「在宅ケアを受ける患者・家族からの暴力・ハラスメント防止方策の構築(基盤研究C 課題番号:16K11981)」の助成を受けて行った調査について、1.管理者等による座談会・討論会、2.暴力の被害にあったスタッフへの対応、3. 訪問看護管理者の調査結果(暴力への対応に関する管理者の困難)を紹介します。

1-1.管理者による座談会

2016年9月6日、A県内の訪問看護ステーションの管理者6名を囲んで、「訪問看護師が被る利用者・家族からの暴力・ハラスメント防止体制」に関する座談会を行いました。暴力・ハラスメント防止のためのポイントを、5点にまとめました(一部変更しています)。

  • • 重要事項説明書に迷惑行為や暴力・ハラスメント行為が発生した場合に契約を解除することがあることを明文化しておきます。
  • • 暴力・ハラスメント行為が発生した場合には、その内容について詳細な記録を残しておきます。
  • • 法に触れる行為(違法薬物の使用など)を見つけた時には、訪問を断るなどのルールを決めておきます。
  • • 毎朝のカンファレンスにおいて、全員で情報を共有し、スタッフの成功事例から統一した対応をとります。
  • • 言葉の暴力が長時間にわたる場合には、時間を決めて、電話連絡を入れるなど、訪問時間を超えないように話を中止します。

引用文献

三木明子、河野あゆみ.訪問看護ステーションの管理者による座談会 訪問看護師が被る利用者・家族からの暴力・ハラスメント防止体制.地域連携 入退院と在宅支援(2017).9(6):95-103.

1-2.管理者と弁護士による討論会

2017年1月29日、兵庫県内の訪問看護ステーションの管理者と専門家などが中心となって「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力対策検討会」を立ち上げました。その検討会の開催に先立ち、2016年12月27日、同会メンバーの中で先駆的に取り組みを行う2人の管理者と弁護士とで討論会を行いました。訪問看護師が暴力やセクハラ等を受けないための方策を、7点にまとめました(一部変更しています)。

  • • 契約書に暴力やセクハラ等を受けた場合の対応について明文化すると同時に、ケアを行う中で患者や家族に暴力やセクハラをしてもよいと思わせない、許さないという毅然とした態度をとります。
  • • 患者・家族からのクレームは、1度目にしっかりと話を聞き、解決策を見つけます。2度目以降も続き、訪問看護が時間内に終わらない場合には「時間なので」と言って退出します。悪質な場合は契約を断ります。
  • • 様々な要求をされ、時間内に訪問看護が終わらない場合、管理者は退出の時間を見計らってスタッフに電話をかけ、退出のきっかけをつくります。
  • • 患者や家族に認められたいというスタッフの思いは、暴力・セクハラ等を容認する態度につながります。管理者はスタッフ1人ひとりの個性を把握し、それに基づいて介入します。
  • • 看護に自信がないスタッフは過剰なサービスを提供し、それが暴力・セクハラ等へと発展する可能性があるため、訪問看護の可視化を行い、スタッフのできている点を認め、認められたいという思いの理解に努めます。
  • •管理者が暴力やセクハラ等に関する正しい知識や防止策を学ぶために、研修会や勉強会に参加します。
  • • 管理者が弁護士や現場が分かる人に日常的に相談できる体制をつくります。

引用文献

三木明子.暴力・セクシュアルハラスメント等の防止策-訪問看護師の被害の実態から-.コミュニティケア(2017).19(8):58-62.

2.暴力の被害にあったスタッフへの対応

暴力を受けた人の急性ストレス反応は、複雑かつ多様です。悔しさや惨めさを感じている、不信や嫌悪を感じている、「自分の対応が悪かったのではないか」「なぜもっと上手く対応できなかったのか」と、自分に対する怒りと無力感を抱えているなどです。

さらに、眠れない、食べられない、音に敏感になる、暴力を受けたときの光景を思い出す/まったく思い出せないなど、さまざまな症状に苦しむことがあります。当初は、現実感が湧かずそれほど辛くなくても、時間の経過とともに、怒りの感情が湧いてきたり、やる気が起きなくなったり、感情を上手くコントロールできないこともあります。

身体的暴力を受けた際、優先すべきはケガの手当で、医療機関を受診することが必要です。業務時間に受けたあらゆる暴力は、労働災害の適用になりますので、証拠保全も欠かせません。また、精神的暴力やセクハラを受けたのであれば、管理者や同僚は、「気持ちを察して見守る」「そっとしておく」のではなく、被害者を孤立させないことが大切です。

暴力を受けたことで傷つくことは理解しやすいのですが、管理者や同僚の言葉で傷つくことがあるのも忘れてはいけません。二次被害は、管理者や同僚が明らかに被害者本人を傷つけようとする意図がなくても、傷つけてしまうこともあります。暴力を受けた人に二次被害につながるような不適切な対応をすれば、訪問に行けなくなるだけでなく、メンタルヘルス不調になり、退職する可能性さえあります。

管理者の二次被害の調査で正解率が低かった内容は、「具体的な職場調整を提案する」や「必要時に専門機関を紹介する」対応でした1)。
ここから在宅ケアの場面でも活かせる学びとして、暴力が生じたときにケガの手当や心のケアが受けることができるように、管理者は医療機関や診療所などとの連絡体制や手順を準備しておくと良いでしょう。

引用文献

三木明子.「暴力の被害を受けた人」を理解でいていますか?暴力の被害にあったスタッフへの対応.訪問看護と介護(2017).22(11):835-837.
1)三木明子、金子経、石橋寧子.患者暴力や二次被害に関する看護管理者の認識.第41回日本看護学会論文集看護管理(2011).227-230.

患者・家族から受ける暴力への対応に関する訪問看護事業所の管理者の困難

背景

日本では、訪問看護師の50%以上が暴力を経験している。しかし、在宅医療において暴力防止対策は不十分である。訪問看護事業所における実効性のある暴力対策をはかるためには、利用者、家族からの暴力対応に関する管理者の困難を理解することが重要である。

目的

本研究の目的は、訪問看護師が利用者、家族から受ける暴力への対応に関して訪問看護事業所の管理者の困難を明らかにすることである。

方法

本調査では、2017年11月に全国5580の訪問看護事業所の管理者を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。ここでは、質問紙の中で「暴力への対応での困難」に関する自由記載項目の分析結果を報告する。分析には質的内容分析の手法を用い、カテゴリー化した。

結果

回収された2024部の質問紙(回収率36.3%)のうち、自由記載への回答のあった272件を分析した。回答者の属性は、女性(95.2%)、平均年齢49.9歳、平均管理者年数7.2年であり、従業員数は、常勤職員数が平均5.1人、非常勤職員数が3.4人であった。

結論

記述データを分析した結果、利用者、家族から受けた暴力への対応の困難に関する10のカテゴリーを抽出した。管理者らは【曖昧な暴力の定義と基準】という難しさを感じていた。このことに加えて、【安全な訪問体制・環境の不整備】や【契約解除のしにくさ】、【被害を証明することの限界】という外部機関の乏しさや保険制度上の困難を感じていた。また、管理者らは、【被害者支援の負担】や【被害者のメンタルヘルスへの影響】、【暴力防止のための職員育成の困難さ】という職員を支援する管理業務としての困難に加えて、【暴力発生現場での対応の難しさ】や【暴力を受けながらのケアの実施】という1人の訪問看護師としての困難を感じていた。さらに暴力が発生しても問題化することによる【利用者にとっての不利益】を考えてしまい対応に躊躇することが示された。

訪問看護事業所の管理者は、訪問先で起こる暴力への対処に関する困難だけでなく、医療システムや社会制度による暴力防止策の限界を感じていた。また、安全で安心な組織作りや職員教育のノウハウも不足していた。以上のことから、小規模事業所の管理者を多方面から支援する体制が必要と考える。

引用

Kei Matoba, So Yayama, Taiki Teshima, Akiko Miki: The COVID-19-related harassment and the difficulties in dealing with them among managers of the home visiting nurse. 26th East Asian Forum of Nursing Scholars (EAFONS). 2023.