日本の現状として、科学研究費補助金「訪問看護師・介護員における暴力への対応力向 上のためのトレーニングプログラムの開発(基盤研究C課題番号19K10840)」の助成を受けて行った調査について、紹介します。
2019年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック時に医療従事者が経験したCOVID-19に関連する差別は、世界中で広く報告されています。ここでは、COVID-19に関連するハラスメントを利用者やその家族から受けた被害者(=訪問看護師)とその心理的影響について調査しました。
COVID-19に関連するハラスメントが訪問看護師のメンタルヘルスに与える影響
【調査実施期間】
2020年11月~12月
【調査協力者】
A地域の訪問看護師2,250名
【結果】
- ・回答者293名のうち、276名(94.2%)が女性、238名(81.2%)が常勤職、平均年齢は45.3±9.9歳
- ・59名(20.1%)が過去10ヶ月間にCOVID-19に関連するハラスメントを経験
- ・ハラスメント被害別の特徴を比較すると、WHO-5の総得点と感染に関連する仕事のストレス要因に有意な差がみられた
- ・53%が精神的不調を感じており、COVID-19に関連したハラスメント被害を受けた訪問看護師は、有意に低かった
- ・患者からのハラスメントが34.9%と最も多く、次いで患者の家族(17.4%)、被害者の同僚(12.8%)
- ・精神的健康状態については、仕事の困難さ、UWESの活力、BSCPの積極的問題解決、回避・抑制のストレスが負の相関を示し、UWESの熱意、BSCPの気分転換が正の相関を示していた
- ・COVID-19に関連したハラスメント被害は、精神的健康状態の低下と関連していたが、有意ではなかった
- ・COVID-19に関連するハラスメントの事例
- ・COVID-19に関連するハラスメントの事例
- “コロナをまき散らすな!”と職場の近くで言われた
- 患者から消毒液をかけられた。
- 休職を申請したら、契約を打ち切られた
- 子供が友達の親に遊んではいけないと言われた
引用文献
Kei Matoba, Taiki Teshima, So Yayama, Erika Kawasaki, Akiko Miki: The impact of harassment related to COVID-19 on home care nurses’ mental health: Cross-sectional study. 24th East Asian Forum of Nursing Scholars (EAFONS). 2021.
日本におけるCovid-19に関連するハラスメントが訪問看護師のメンタルヘルスに与える影響:横断的研究 的場圭、 手嶌大喜、 矢山壮、 川崎絵里香、 三木明子
科学研究費補助金「在宅ケアを受ける患者・家族からの暴力・ハラスメント防止方策の構築(基盤研究C 課題番号:16K11981)」の助成を受けて行った調査について、1. 在宅ケアの場における暴力・ハラスメントの実態調査の結果、2. 暴力・ハラスメント対応研修後の調査結果を紹介します。
在宅ケアの場で患者や家族から受ける暴力等の実態については、研究報告が非常に少ないです。訪問看護師を対象とした実態調査には、武ら1)の全国調査や林ら2)の兵庫県内の調査があります。調査の結果では、これまでの業務経験の中で、身体的暴力を受けたことがある訪問看護師は33.3%1),暴力(身体的暴力・精神的暴力・性的嫌がらせ)を受けたことがある訪問看護師は50.3%2)と報告されています.さらに、近年、訪問看護師や管理者が苦慮しながら、暴力に対応している現状について報告されるようになってきました3)4)5)。この10年の訪問看護師および訪問介護員における暴力に関連した取り組みの動向について、表にまとめているので文献を参照ください6)。
1.在宅ケアの場における暴力・ハラスメントの実態調査の結果7)
【調査実施期間】2017年9月
【調査協力者】A団体の全69事業所の訪問看護ステーションに従事する全職員525名
【結果】表1 過去1年間における患者・家族からの暴力・ハラスメント経験の実態 訪問看護師 (N=445)
項目 | n | % | |
患者からの身体的暴力の経験 | ある | 71 | 18.1 |
ない | 322 | 81.9 | |
患者からの精神的暴力の経験 | ある | 100 | 25.6 |
ない | 290 | 74.4 | |
患者からのセクシュアルハラスメントの経験 | ある | 100 | 25.4 |
ない | 293 | 74.6 | |
家族からの身体的暴力の経験 | ある | 1 | 0.3 |
ない | 393 | 99.7 | |
家族からの精神的暴力の経験 | ある | 40 | 10.2 |
ない | 354 | 89.8 | |
家族からのセクシュアルハラスメントの経験 | ある | 7 | 1.8 |
ない | 387 | 98.2 |
表2 患者・家族からの暴力等被害による離職意向と身の危険
項目 | n | % | |
暴力等被害による離職意向 | あり | 79 | 29.7 |
なし | 187 | 70.3 | |
暴力等被害により身の危険を感じた | あり | 60 | 18.6 |
なし | 262 | 98.2 |
2.暴力・ハラスメント対応研修後の調査結果8)
【研修の実施期間】2017年11月~2018年4月
【調査協力者】A県、B県に所属する訪問看護師のうち患者からの暴力・ハラスメント対応研修に参加した127名
【研修時間】3時間
【結果】表1 研修で最も優先順位が高かった内容
研修内容 | n | % | 平均値 |
暴力の価値基準によるチーム内の意思決定 | 25 | 19.5 | 9.4 |
場面対応(困った事例の具体的対応) | 25 | 19.5 | 9.5 |
暴言のエスカレーションに応じた初期対応 | 24 | 18.8 | 9.4 |
危険予知訓練(KYT) | 17 | 13.3 | 9.3 |
訪問に伴う危険要因の抽出 | 15 | 11.7 | 9.0 |
注)10段階評価で得点が高いほど研修内容の重要度が高いことを示す。
表2 研修での気づき
- ・暴力・ハラスメントに対する認識が不足していた
- ・暴力・ハラスメントへの対応力が不足していた
- ・暴力・ハラスメントがあっても、訪問看護師側に原因があると考えていた
- ・暴力・ハラスメントがあっても、患者は弱者であるため、許容すべきと考えていた
表3 研修での学び
- ・暴力・ハラスメントへの対応方法
- ・二次被害の予防の重要性
- ・リスク回避の重要性
- ・組織的な対応の重要性
引用文献
1) 武ユカリ、畑吉節未.在宅ケアにおけるモンスターペイシェントに関する調査.在宅医療助成勇美記念財団助成. (2019/3/5閲覧)
2) 林千冬、今岡まなみ、藤田愛、山崎和代、遠藤理恵、花井理紗.訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力の実態と対策-兵庫県下における実態調査の結果から-.訪問看護と介護(2017).22:847-857.
3) 藤田愛、他.特集 あなたならどうする?訪問看護におけるトラブル.コミュニティケア .(2016).18:10-28.
4) 三木明子、河野あゆみ.訪問看護ステーションの管理者による座談会 訪問看護師が被る利用者・家族からの暴力・ハラスメント防止体制.地域連携 入退院と在宅支援(2017).9:95-103.
5) 三木明子.暴力・セクシャルハラスメントなどの防止策.コミュニティケア(2017).19:58-62.
6) 三木明子.訪問看護師および訪問介護員における暴力の実態と取り組みの動向.産業精神保健(2018).26(1):1-5.
7) 三木明子、鈴木理恵、二階堂規子、厚美道子、芹田優子、小菅紀子.訪問看護師等が患者やその家族から受ける暴力・ハラスメントの実態調査.看護展望(2018).43(8):45-51.
8) 武ユカリ、三木明子.訪問看護師のハラスメントに対する支援ニーズとは-患者からの暴力・ハラスメント対応研修を実施して.看護展望(2018).43(8):41-44.